鴨長明『方丈記』原文と現代語訳(九) ~ 閑居の気味 ~
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和して同ぜず
鴨長明の代表作『方丈記』の原文と現代語訳を掲載しています。
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ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖と、またかくのごとし。
予、ものの心を知れりしより、四十余りの春秋を送れる間に、世の不思議を見る事、ややたびたびになりぬ。
また、治承四年卯月のころ、中御門京極のほどより、大きなる辻風起こりて、六条わたりまで吹ける事侍りき。
また、治承四年水無月のころ、にはかに都遷り侍りき、いと思ひの外なりし事なり。
また、養和のころとか、久しくなりて覚えず。二年が間、世の中飢渇して、あさましき事侍りき。或は春、夏日照り、或は秋、大風、洪水などよからぬ事どもうちつづきて、五穀ことごとくならず。夏植うるいとなみありて、秋刈り、冬収むるぞめきはなし。
また、同じころかとよ、おびたたしく大地震振ること侍りき。
すべて世の中のありにくく、我が身と栖とのはかなくあだなるさま、またかくのごとし。いはむや、所により、身のほどにしたがひつつ、心を悩ます事は、あげて計ふべからず。
ここに、六十の露消えがたに及びて、さらに末葉の宿りを結べる事あり。いはば旅人の一夜の宿を作り、老いたる蚕のまゆをいとなむがごとし。これを中ごろの住みかにならぶれば、また百分が一に及ばず。
おほかた、この所に住みはじめし時はあからさまと思ひしかども、今すでに五年を経たり。仮の庵もややふるさととなりて、軒に朽葉深く、土居に苔むせり。
そもそも、一期の月影傾きて、余算の山の端に近し。たちまちに三途の闇に向かはんとす。